きっかけは響龍さんが亡くなられたニュースです。率直に腹が立つ、です。相撲協会はじめ、指導者や力士ご自身でもしっかりと脳震盪が何で、何が起こり得るのか知り、そして対策を施してほしいです。そうでなければ、伝統を何かと履き違えた前時代的なスポーツのようなものとして廃れていくだろうし、今のままなのであれば、力士=優秀なアスリートの命を守ためにも、そうなってほしいとおもっています。
何が起こったのか
山口県出身で境川部屋の響龍は、ことし3月26日の春場所13日目の三段目の取組で相手に投げを打たれて敗れた際に頭から土俵に落ち5分以上倒れたままになり、その後、救急車で病院に搬送されました。翌27日、師匠の境川親方は「一生懸命、治療に専念している」と説明していました。日本相撲協会によりますと、響龍は入院を続けていましたが28日午後6時すぎ、急性呼吸不全のため都内の病院で亡くなったということです。28歳でした。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210429/k10013004821000.html
【参考】脳震盪とは
TED Edの6分解説
脳震盪が起こるとどうなるのかについて6分&アニメーション付きで解説してくれます。音声は英語ですが日本語字幕があるのでYOUTUBEの設定から日本語字幕を選択して見てみてください。驚きだったのはサッカーのヘディングのような衝撃でも、脳へのダメージが蓄積して構造的なダメージとなり得るという点。脳がそれほど繊細な器官であることを認識できていませんでした。
映画 Concussion
脳震盪について書こうと思ったときに最初に思い立ったのがこの映画でした。2021年の今から6年前の2015年に公開された「コンカッション」です。アメリカで最も人気のあるスポーツであるアメリカンフットボールにおける脳震盪と、脳震盪から起こる様々な症状を科学的に立証し、「慢性外傷性脳症(CTE:chronic traumatic encephalopathy)」という名前をつけて世間に発信、NFLという組織と戦った解剖医の物語です。一昨日初めて見たのですが、現役時代にはスーパーヒーローだった選手たちが悲惨な状況で亡くなっていくのが悲しかったです。脳震盪の後遺症のために家族に暴力を奮ってしまったり、自身をコントロールできなくなってしまったり、そうなるのではないかと不安に思ったり、と色んな理由で事故や自殺でなくなる選手が4名出てきました。これがフィクションではなくて、実在していた選手の話なわけです。どうしてこうなってしまったんだろうという気持ちになりました。悲しすぎる。
私が怒っている理由2つ
相撲界の受け止めが甘いように感じる
あまりに他人事。私には亡くなった要因として、試合中に脳震盪があったこと、その後の対応のまずさがあるとしか思えないのに、まるでそれはなかったかのようなコメントだな、と思っています。協会として、どうして亡くなってしまったのかの原因追求と、以降で同じことを起こさない対応についてなんの発信もされていないことにも違和感しかありません。どう考えてもあの試合のせいで一人死んでるのに、協会はなんの対策も考えていません(今の所)というように私は受け止めています。もう本当に意味不明。協会のトップがこんな受け止めじゃ、人が死にうる危険なスポーツだけどしゃーないと言ってるようなものでは。
協会トップの八角理事長(元横綱北勝海)は「この度の訃報に接し、協会員一同、心より哀悼の意を表します。ご遺族の皆様方のご傷心を察しますと、お慰めの言葉も見つかりません。私自身、突然の訃報に、ただただ驚き、茫然としております。一か月以上にわたる闘病生活、さぞ辛かったと思いますが、ご家族や師匠らの懸命の看病のもと、力士らしく、粘り強く耐え、病魔と闘ってくれました。今はただ、安らかに眠って欲しいと願っております。懸命の治療を施してくださった医療関係者の皆様には故人に代わり、深く感謝申し上げます」(原文ママ)とのコメントを発表した。
https://www.nikkansports.com/battle/sumo/news/202104290000467.html
湘南乃海のときの対策が足りてない
映像を見てもらえれば分かると思いますが、2021年1月19日にも明らかに脳震盪を起こしている力士=湘南乃海=映像右側がいました。冒頭で頭からぶつかってしまい、なんとか立ち上がられたものの、フラフラとしていて、人によってはかなりショッキングな立ち振舞いをされています。その後はなんとか立ち直り試合続行、湘南乃海の勝ちとなりました。ニュース記事によれば、本人の意思を尊重して試合の続行を決定したようですが、私は当時の彼が正しい判断ができる状態だったとは思えません。
この試合がニュースとなり、協会としては以下を方針として決定したようです。ファーストステップとしてはとても重要だし、より危険な状況から力士を救ういい方策だとは思うのですが、起こってしまったときの初動対応にまで及ばなかったことが悔やまれるなぁと思います。
日本相撲協会の審判部は27日、こうした取組の扱いについて協議した結果、勝負がつく前でも脳しんとうやけがなどで審判団が力士の状態が危険だと判断した場合、その力士を不戦敗として相撲を取らせないことを決めました。伊勢ヶ濱審判部長は「危険な時は相撲を取らせない。次の場所までに規則に加える」と話し今後、勝負規定や審判規則に盛り込む方針を明らかにしました。
https://www.nikkansports.com/battle/sumo/news/202101190000327.html
トップリーグにおける取り組み
HIAの導入と実施
ラグビーに於いては2016年からHIA(Head Injury Assessment)が導入されています。詳細は下記トップリーグのリンクをご参照方。簡単には下記。脳震盪の疑いがあれば、試合を止め、当該選手に適切な教育を受けた医師による診断を受けさせ、診断の結果に基づき試合出場をジャッジする、です。
- 脳振盪の疑いのある選手を一時退出させる
- HIAの専門的な講習を受けたマッチドクター、チームドクターにより脳振盪を確認する
- 脳振盪ではないと判断された場合:試合に戻ることができる
- 脳振盪と判断された場合:当該選手はプレーを続行することはできない
- 退出選手の評価に充てる時間は最大10分間で、その間は一時交替の選手が出場可能。
ラグビーにおける有資格者の意見
私の雑なネサフ調査でも見つけられた有資格者;有田 正典先生の本件に関する記事を紹介します。ラグビーに於いてはどのような対応をされていて、今回の対応についてどう間違っていたのかを解説してくださっています。ご自身がラグビー選手であり、かつ怪我をされた経験があり、そして現役のチームドクターとして青山学院ラグビー(高校も大学も)担当されているとのこと、まさに意見を発信するに値する方の記事なので、是非読んでいただきたいです。まっとうなことが書いてあります。
私の思い
スポーツは悪くない
NFL/アメリカンフットボールだったり、ラグビーだったり、相撲だったり、そのスポーツそのものを壊したり、批判したりしたいわけじゃない、とても第三者的な感想というか他人事な思いです。そのスポーツ自体は悪ではない。ただ脳震盪を始めとする様々なリスクと対処法はしっかりと学び、実践していくべき。一方でそれはそのスポーツに関わる危険性を煽っているようにも感じられるわけで、みんなが納得できる模範解答ってなんだろうなぁと思いました。映画 Concussionでは「1割の母親が息子にアメフトをやらせたくないと言い出したら、NFLは終わりだ」というセリフが劇中にありました。多少大げさだなぁとは思いましたが(1割減ったとしてもNFLって巨大産業でしょ、という意味で)アメフトというスポーツはめちゃくちゃ面白くて楽しいものでそれは応援したいけど、脳震盪やその他のリスクを見ないようにすることも違うし、ただし闇雲にリスクばかりを主張したいわけでもないのです。同じことを別の言葉で繰り返し書いているんですが、伝えたいのは、こういう葛藤というか議論のグルグル感です。コンタクトスポーツである以上、コンタクトのないスポーツに比べれば危険でリスクのある競技であるんだから、だから、それを認識して理解して対策しないと成立しなくなっちゃうな、です。
だからちゃんと対策をしてほしい
ラグビーにおいては首から上に関わるプレーについてはジャッジが厳しくなっていますし、NFLにおいてもルールが変わっているようです。すべてのスポーツが多くの人に受け入れられるためには当然プレーする選手たちが楽しく、安全に取り組めることがとっても重要です。そのスポーツを普及したいのであれば、安全を担保できるような取り組み、なにか不慮の事故があったとしても対応できる体制と環境を整えることが不可欠なのかなと思っています。その文脈において、私にとっては相撲は自分自身はもちろん、友人や子どもにプレーを薦められる環境になっていないなと感じています。冒頭にも書きましたが優秀なアスリートの選手生命と、いのちそのものを守る対策と環境づくりをお願いします。
コメント
広報の仕事目線で読めるぐらい、読み応えのあるわかりやすい内容でした!お疲れ様!